「津軽海峡・冬景色」を見に行く旅R(2)

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rockmansion.hatenablog.jp

 

※記事の内容は旅行当時のものです。

2022年1月24日(月)

 旅行2日目。この日は秋田駅から奥羽本線に乗車する。月曜日の通勤通学時間帯からのスタートなので、少し早めに宿を出て駅へ向かったが、ホームへ降りてみるとまだ入線していなかった。

1本前の追分行き。東北ではおなじみの701系

 乗車位置の案内がないので適当なところに立っていると、やがて列車は4両編成で到着し、私の目の前でドアが停まった。折り返し弘前行きとなる列車である。首尾よくロングシートの端に腰を落ち着けると、あとからあとからどんどん高校生が乗り込んできて、満員になった列車は定刻通り秋田駅を出発した。

 住宅街の中を走り、泉外旭川という駅に停まる。耳に馴染みのない駅だと思ったら、昨年3月のダイヤ改正で誕生した新駅であった。日本海ひすいラインえちご押上ひすい海岸駅と「同期」というわけだ。

 このあたりは上り線と下り線が分かれて走っているため、ホームも上りと下りで分かれており、川の中州に当たる位置に駅舎がある。ここで早くも高校生がぞろぞろと大勢降りたが、秋田方面のホームにも乗客が鈴なりで列車を待っており、新駅の掘り起こした需要が見て取れる*1。次の土崎では通勤客らしい人々がぞろぞろと降りて行った。近くにJRの工場があり、通勤客の中にはそちらの関係者も多いかもしれない。

 市街地を抜けるころには、すっかりガラガラになった列車は北上を続ける。左側の車窓には駅名にもなっている八郎潟が広がるのだが、雪で覆われているため他の雪原との区別はつかない。五能線との分岐駅である東能代では、引退したキハ40系が構内の留置線で風に吹かれていた。ここから奥羽本線は進路を東に取り、内陸部へと入っていく。

 大館を出ると列車はいよいよ山深いところへと差し掛かり、青森との県境に位置する矢立峠へ挑む。と言っても長大トンネルで抜けるから、特に難所という感じは受けない。モーターを唸らせていいペースで走っていく。県境越えの需要は僅少のようで車内は相変わらず空いているが、暖房の効きは申し分ない。トンネルを出るとそこは青森県。雪煙を盛大に巻き上げて、冬季休止中の津軽湯の沢駅を通過する。そして秋田を出発しておよそ2時間半、終点の弘前駅に到着した。

 弘前からは五能線の深浦行き普通列車に乗り換える。五能線は2つ先の川部駅から分岐するが、すべての定期列車が弘前駅から発着する。車両は、新潟地区でも運行されているGV-E400系気動車の色違いである。五能線では2020年末から運行を開始しており、1年あまりが経つが、車内はまだ新車の匂いが残る。

 10時23分、2両編成の深浦行きは定刻通り弘前を発車した。川部で進行方向が変わり、列車は五能線に入る。左右の車窓にはリンゴの木が広がり、その奥には津軽富士こと岩木山が見える。頂上付近は霞がかっていて見えないが、かえってそれが幽玄な雰囲気を醸し出していた。

 弘前から40分あまりで五所川原駅に到着。ここで下車し、津軽鉄道に乗り換える。津軽鉄道(通称・津鉄)は、津軽五所川原駅から、太宰治の生まれ故郷で知られる金木を経由し、津軽中里駅までを結ぶ全長20.7キロの盲腸線である。全線非電化で、1両のディーゼルカーがトコトコと走るのどかなローカル線だ。非電化の盲腸線と聞くと、国鉄の赤字線を第三セクターとして引き継いだ鉄道が日本各地にあるので、ここもその1つと思われるかもしれないが、実は純粋なる私鉄。

 一応、JRとホームはつながっているのだが、改札や駅舎は別に存在する。一旦JR側の改札口から出て、駅前で弁当を調達し、津鉄側の駅舎に入り直す私。実にいい風情で、これからローカル私鉄の旅が始まるのだという気分を増してくれる。

 1日12本ある列車のうち、乗車するのは11時50分発の名物「ストーブ列車」。他に夏は「風鈴列車」、秋は「鈴虫列車」というのもあるらしい。

 券売機はないので、きっぷは窓口で購入する。見よ、この情報量の多さ。天井付近に掲げられた金木津軽凧から始まり、風景写真やら運賃表やらポスターやら、壁一面に掲示物がひしめき合っている。その中の一角に埋もれるようにして窓口がある。出札のおばさんから、津軽中里までの乗車券のほかに500円のストーブ列車券を購入。どちらも昔懐かしい硬券で出てきた。ちなみに写真の右側には売店があり、ちょっとしたお菓子や津鉄グッズ、ご当地の特産品なども買える。

 そんなものを眺めていれば待ち時間などあっという間で、やがて改札が始まったので入場した。前回来たときは機関車が牽引していたと思うのだが、今日は普通の気動車が機関車代わりとなって客車を引っ張るスタイル。私のような観光客は後ろの客車に、普段使いの地元のお客さんは前の気動車に乗車するという具合だ。

 客車内はこんな感じ。元は国鉄で使われていたオハ46形という古い客車で、国鉄時代はSLが牽引していたため、ボイラーの熱を引き通したスチーム暖房がついていた。しかし津鉄にはSLがないので暖房が使えない。そこで、車内に新たに石炭ストーブを設置したのが「ストーブ列車」の始まりだという。

 それがこのダルマストーブ。左のバケツに山と盛られた石炭を焚いて、乗客に暖を提供している。赤々と燃える炎が空気取り入れ口の窓からかすかに見えて、見た目にも暖かみがある。

 さて、走り出した。コロナ禍の平日ということでか、乗客はわずかに4~5人といったところ。気動車のほうは見ていないので分からないが似たようなものだろう。コロナ前はおそらく平日でも観光バスで団体客がやって来ていたはずで、空いていて静かな車内はありがたいが、早くコロナが収まらないかなという気持ちになる。

 昼食は、駅前のカフェのようなところで買った「青森シャモロック」という地鶏を使った炊き込みご飯である。お手頃価格だったので量はやや物足りないが、うまい。

 列車はローカル線らしく超チンタラ走って行く。通過駅があるので一応「準急」という扱いらしいが、速度はおそらく30キロ程度しか出ていまい。もっとも、速く走ったら早く終点に着いてしまうから、これくらいの速度が落ち着いて景色を楽しめて、旅行者にはちょうどよい。

 時々、車掌がストーブの様子を見に来る。ふたを開け、山盛りのバケツから石炭を2つ3つ火箸で摘まみ上げて中へ投じる。石炭は釧路産だそうで、どうしてそんなことを私が知っているかと言えば、添乗しているアテンダントさんが教えてくれるからである。そう、ストーブ列車には車掌のほかに地元の人がアテンダントとなって乗車し、車内販売のほか、景色のことから車両のことまで、津軽なまりのアナウンスで教えてくれる。前述のオハ46形のくだりも、実はアテンダントさんの受け売りである。

 約20kmの道のりを45分かけ、終点の津軽中里に到着した。折り返し列車の時間まで駅前を散策してみようと思ったが、45分間ストーブの前でぬくぬくしていた身には津軽の寒風が堪える。少し歩いてみただけでおしまいにして、結局駅舎に併設する建物の中で過ごした。

 往路で乗ってきた列車が折り返すので、帰りもまた気動車牽引のストーブ列車である。今度は一般車でいいかと思ったが、せっかく来たのだからもう一度乗ってやろうと思い直し、津軽中里駅硬券の乗車券とストーブ列車券を買って乗車した。

「あそこで炙られてるスルメ、俺のなんすよ」

 そして往路は我慢していたが、復路ではスルメを購入し、ストーブの上で炙ってもらう。往路でもほかの乗客が購入しており、車内に香ばしいスルメのスメル*2が充満していてうらやましかったので、「買ったスルメを車内のストーブで炙ってもらって食う」という体験も込みで買ったのである。このスルメも地元で水揚げされたイカを使っているそうで、大変うまい。

 同じ列車で同じ景色を行くので、見終わった絵巻を巻き戻すような45分が過ぎ、終点の津軽五所川原に到着。隣のJR五所川原駅から再び五能線に乗り、川部まで戻ってきた。列車はこのまま弘前へ向かうが、私は奥羽本線に乗り換えて青森へ向かう。

 15時41分の青森行きに乗車する。2両ワンマンか、3両ツーマンか……と想像していたら、予想に反して5両もつないだ列車であった。車内は閑散としており、暖房の効いた静かな車内で揺られていると、なんだか眠くなってくる。

 各駅に停まるが乗客の目立った増減もなく、終点青森の1つ手前、東北新幹線との乗換駅である新青森駅まで来た。結局ガラガラだったな、さて乗り換え客はどの程度だろうかとホームへ目を移すと、なんとここへ来て高校生の大群が待ち構えているではないか!

 整列乗車というわけでもなく、とにかくホーム全面にまんべんなくひしめきあっているという有様で、ドアが開くや否や喚声とともに押し入って来、静かだった車内はたちまち叫喚の巷となった。なるほど、これでは5両編成も止むを得ないと納得した私を乗せて、16時25分、列車は定刻通り青森駅に到着した。

 駅前のビジネスホテルにチェックインし、目星をつけていた食堂へ向かったが、あいにくこの日は休業。止むを得ず1時間近く駅前をウロウロした挙句、煮干しラーメンの店へ入った。

 黒い魚粉まみれのドロドロのものではなく、澄んだ色の醤油スープに中太ちぢれ麺が入っているのが青森の煮干しラーメンの特徴。見た目はオーソドックスな中華そばだが、一口すするとめちゃくちゃしょっぱい! しかし煮干しの旨味も感じる。なるほど、東北は塩辛いものが好きな人が多いと聞く。そういうお国柄も味に表れているのかしらと思いつつ、一人、麺をすするのであった。


つづく

 

 

*1:ただし、これでも開業前の予測の3分の1程度に留まっているようである

*2:渾身のダジャレ