鉄路は西から東から

鉄分多めの日常とお出かけの記録

【祝10周年】北陸3セク開業日を振り返る(後編)

前編の続きです。

あいの風とやま鉄道 泊駅から普通列車に乗車し、糸魚川駅を目指します。

 

 

2015年3月14日(土)

開業記念ヘッドマークつき。イベント兼用車(ET122-7)に乗車

 泊に到着し、折り返し直江津行きとなる日本海ひすいラインの列車に乗車する。ここからは、第3セクターとなって最も変貌した区間である。最大の変更点がこの車両――ET122形気動車だ。昨日までは電車のみが走っていた泊~直江津間は、今日からほぼ全てこの気動車での運行となった。

 というのも、これは糸魚川と梶屋敷の間*1に、交流と直流の切り替わる「デッドセクション」が存在するためである。通常、電車を動かす電源には直流ないし交流のみが使われ、これを跨いで走る区間は全国にも数か所しかない。両方の電源に対応した交直流電車は非常に高価で、なおかつ機器が多くなるため最低でも2両編成になる。

 これから乗車する日本海ひすいラインは富山・新潟県境を越える区間で、沿線人口が少なく、利用者も多くは見込めないことから、日中は2両編成でさえ過剰である。そこで、電気に関係なく、1両編成でも走れる気動車を導入することとなった。

ここから人口は少ないが景色は良くなる

 2両編成の座席がすべて埋まり、通路に立っている人もチラホラいる状態で泊を発車。まもなく左手には日本海が見えてくる。会社が変わり、車両も変わったが、車窓に広がる海は変わるはずもない。雲は多いが波は穏やかで、今日から始まる新会社の船出を静かに見守っているようだった。

 県境の川を渡って新潟県に入ると、最初の駅、市振に停車。ここが会社の境目で、ようやく日本海ひすいラインとなる。本来ならここで乗り換えとすべきかもしれないが、前編でも触れたとおり市振は無人駅のため、2つ隣の泊が乗り換え駅となった経緯がある。

 長大トンネルにエンジン音を響かせ、各駅に停まって列車は糸魚川に到着。しばらく停車するようだが、私はここで途中下車する。この写真を10年経ったいま見返してみると、ツーマン運転、補助灯点灯という差異もさることながら、どこに停まってんねんという感じである。こんなところに2両停目*2あったんすねぇ。

トキ鉄のキャラクター「トキテツくん」。足が長い(笑)

 改札を出るとコンコースはごった返している。金沢から乗車して、高岡、富山と降りてきたが、ここが一番多いように感じる。グッズ販売や観光名所を紹介するブースが設けられているが、あまりの人込みに近づくことすら困難な場所も。新幹線のりばへ続く連絡通路には、トキテツくん(直球ネーミング)の姿があった。

糸魚川駅に到着する北陸新幹線

 今日はこのあとも在来線を乗り継いで十日町を目指す予定だが、北陸新幹線の姿をまったく拝まないのも偏屈だろうと、入場券を買ってホームへ入ってみた。ちょうど東京行きの〈はくたか568号〉が到着し、乗降客で一時のにぎわいを見せる。が、コンコースのような混雑はなく、車内も空席が目立つ。初日なんて大型連休並みに満員御礼だと勝手に思い込んでいたので、少し拍子抜けした。

この人たち、みんな直江津行きに乗るの……?

 在来線ホームに戻って、次の列車で直江津へ向かう。だが、ホームには大変な数の人が待ち構えている。これ全部乗れるのか……? と不安になっているところへやって来た列車は1両編成。乗車が始まるとたちまち満席、というか通路までギュウギュウ詰めになって到底乗車できない。

今度の直江津行きは無情にも1両

 今日は開業日。ただでさえ北陸新幹線を、あるいは「新生トキ鉄」を一目見よう・乗ろうという客が多いところへ、昨日まで3両以上がデフォルトだった列車が1両になったわけだ。助役が出てきてわあわあやっているが、もはや中まで詰めればどうにかなる次元ではなく、物理的に乗車不可能な数の乗客が押し寄せている。それでも他人をグイグイ押し込んで無理やり乗ろうとする人、あきらめて傍観する人、さらには「臨時列車を出せ!」と怒鳴っているジジイまで現れる始末で、祭りのような高揚感は一変、殺伐とした雰囲気がホームに漂う。

人を乗せるっていうレベルじゃねーぞ

 さすがに居たたまれなくなって私も乗車を断念したが、この調子では次の列車もどうなるか分からない。仕方なしに再び新幹線ホームへ上がり、上越妙高までのきっぷを買ってワープすることにした。

混雑とは無縁、落ち着いた雰囲気の新幹線車内

 〈はくたか570号〉に乗車。自由席は窓側が半分埋まっているくらいの乗車率で、トキ鉄の喧騒は何だったのかという感じだった。今日からは〈はくたか〉と言ったらこの列車を指す。しかし9両の在来線特急と12両の新幹線では、同じ毎時1本でも輸送力の差は歴然である。

開業成った北陸新幹線上越妙高」駅

 わずか12分の乗車で上越妙高に到着。昨日までここは「JR信越本線 脇野田駅」だったが、今日からは北陸新幹線とトキ鉄の妙高はねうまラインが停車する、上越市妙高市の新たな玄関口となった。

5つの桜を盛り込んだ展示

 こちらも当然ながら人が多い。とはいえ、駅の規模が大きいためか、糸魚川ほどごった返している印象はなかった。「越五の国」と称して、上越妙高駅開業の恩恵にあずかる5つの市*3から持ってきたという桜が、葉桜になりつつも大きく枝を広げていた。

トキ鉄の上越妙高駅。昨日までの脇野田駅

 思いがけず新幹線に乗ってしまったが、せっかく来たので妙高はねうまラインにも少し乗ってみようと思う。

南高田駅。列車のデザインはJR時代のまま

 まずは直江津行きの列車で隣の南高田まで行く。列車は今日から走り始めたET127系だ。ひすいラインのように新車ではなく、元はJR東日本から譲渡されたE127系という電車で、早い話が中古車である。しかし堂々たる6両編成を組み、車内もオールロングシートだからまったく混雑していない。北陸本線信越本線、異なるJRの路線が今日から同じトキ鉄の路線になったわけだが、さっそく格の違いを見せつけられたように感じる。

北新井駅。看板が変わった以外に変化はない

 続いて妙高高原行きで北新井へ。新井まで行くと反対列車に乗れないので、また無人駅で降りてしまった。駅舎の外の看板がJRからトキ鉄に変わった以外は、これといって面白みがない。駅舎内も、掲示物や券売機がトキ鉄仕様になったのみだ。まあ、開業初日なんてそんなものだろう。

発車を待つ泊行き(左)と長岡行き

 直江津へ戻ってきた。時刻は17時を過ぎ、次第に薄暗くなってきた。開業イベントはお開きで、人出も徐々に収まりつつある。ホームには、泊行きのET122形気動車と、長岡行き115系電車が停まっている。片や、今日から会社が変わり、車両が新しくなった代わりに気動車になり両数が減り、本数は増えたが泊までしか行かなくなった旧北陸本線。片や、昨日と同じ会社が、昨日と同じオンボロ車両で、昨日とほとんど同じ本数のまま同じ行先で運行する信越本線。新幹線開業それ自体は間違いなくこの地域の福音となろうが、残された在来線はどんな形が望ましいのだろうか、と考えさせられる。

新しい看板列車:超快速〈スノーラビット

 さて、在来特急〈はくたか〉の軌跡をたどる旅もいよいよ最終ランナーである。乗車するのは北越急行ほくほく線の超快速〈スノーラビット〉。今日から運行が始まり、直江津を出ると途中の停車駅は十日町のみという、まさに快速を超えた「超快速」の名にふさわしい破天荒な列車だ。

英語表記は「”Cho”Rap.」と来たもんだ(十日町駅で撮影)

 特急廃止にまつわるネガティブな話題ばかりが目立ったほくほく線だが、こういうゴキゲンな列車を走らせて攻めの姿勢を崩さないのは大変好もしい。国内最速160km/hを誇った〈はくたか〉の遺志を継ぐように、HK100形電車が小駅を次々に通過していくというのは想像しただけで痛快であり、新幹線や新生3セクには負けないぞ、という意気込みを感じさせた。

 ――それが運行開始8年で消滅する運命とも知らず、私は最後に取っておいた御馳走のふたを開けるがごとく、超快速の車内へ意気揚々と乗り込んだのであった。

 

おわり

 

*1:開業当時。現在はえちご押上ひすい海岸~梶屋敷間

*2:停止位置目標

*3:上越妙高、柏崎、十日町佐渡