鉄路は西から東から

鉄分多めの日常とお出かけの記録

『かげきしょうじょ!!』が本当の「かげき」になった日

どうもこんにちは。

『かげきしょうじょ!!』が舞台化するらしいゾ。

私がこの情報を知ったのは、7月14日のことでした。

kageki-stage.com

しかも、いわゆる”2.5次元”というやつ。身も蓋もない言い方をすれば、役者がキャラクターのコスプレをして芝居をするというものです。2.5次元の舞台なんて見たことがないし、もちろんどんな内容になるのかも分からない状態でしたが、ビビビと来た私はその日のうちに「ぴあ」のアカウントを作成し、チケットの抽選販売に申し込みました。

それから3ヶ月。無事にチケットを入手し、さらには本家の宝塚歌劇を先に観劇する機会に恵まれ、YouTube公式チャンネルで想像を膨らませ、10月に発売されたばかりの原作コミック最新巻を読んで、頭を完全にかげきしょうじょ!!モードに整えたうえで、観劇に臨みました。

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2023年10月18日(水)

14時05分の電車に乗らねばならぬのに13時過ぎまで仕事をし、それから会社で着替えて、一旦家に帰るヒマもなく荷物を持って駅へ直接向かわざるを得ず、もしアクシデントが発生して少しでも残業になったらアウト……という、嫌がらせのような勤務を何とか切り抜け、やってきました「こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ」。

大学時代の私にとって新宿は一番近いターミナル駅でしたが、ここには初めて来ました。それにしても、日が落ちた後の新宿の街を歩くなんていつぶりだろう。むやみに人ばかり多くて、ごみごみしていてうるさくて、なんとなく四辺がくさい。

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ガラス張りのホール入口には舞台「かげきしょうじょ!!」のポスターが掲げられ、テンションが上がります。ちなみに今日は公演初日。抽選を申し込むにあたって金土日は混みそうだなとか、トークショーがある日は競争率が高そうだなとかいろいろ考えた結果、初日の舞台を観に行くことになりました。

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入場。ロビーへと続く階段を上がると、まずは今回の公演の物販コーナー。パンフレットやTシャツ、ブロマイドなどの各種グッズの中央には、原作者である斉木久美子先生の描かれた色紙が。こっちまで嬉しくなるねぇ。

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アニメのシーンを抜き出したパネルコーナーも。これは果たしてこのあと始まる公演の内容と関連があるのか、無いのか。

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各方面から出演者へ贈られた花も飾ってあります。ここまで来ておいてなんですが、私は今日の演者さんたちのことはほとんどまったく知りません。知らないながらも、皆さんそれぞれに熱心なファンがいるんだなぁということだけはよく分かりました。

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そういえば、原作マンガの『かげきしょうじょ!!』は一応少女マンガというくくりだと思いますけれど、舞台を見に来ていた客層は男女比6:4くらい。年齢層は幅広く、若者からオッサン、オバサまでいました。普段、周りにかげきしょうじょ!!ファンがいないので、世の中にはこんなに同好の士――それも、安くないお金を払って劇場まで足を運ぶ同士――がいたのかと、ちょっと嬉しくなりました。

……と、ここまでは公演開始前のロビーの様子。ここからは舞台の感想です。

 


www.youtube.com

まず結論から言うと「最高でした」。もうマジのガチで最高。2.5次元の芝居は初めてだと前述しましたが、こんなに素晴らしいものだとは思いませんでした。あまりの素晴らしさに、21日(土)の公演も配信で視聴し、さらに1週間は見放題だったので、2日に一度は観ていました。

舞台化でも映画化でもドラマ化でも、とかく「実写化」というものに抵抗感を催すオタクは多いと思います。私もその一人。高いチケット代*1を支払って期待する分、もしもガッカリするような微妙な出来だったら……と心配する節もありました。でも、そんなネガティブな想像は見事に裏切られました。

全員が全員、再現度が高い。芝居も上手いしダンスも上手い。それを踏まえた上で、特に印象に残ったキャラクターが

  1. 渡辺さらさ
  2. 奈良田愛
  3. 山田彩子
  4. 野島聖
  5. キモオタさん

以上の5人です。

1.渡辺さらさ
2.奈良田愛

言わずもがな主役の2人。渡辺さらさは志田音々さんが、奈良田愛は二瓶有加さんが演じています。ウィッグをかぶっていても、正直、見た目はお二人とも原作に似ているとは言いがたい。「なぜこの2人が?」と謎でしたが、公演が始まってすぐに疑問は吹っ飛びました。

芝居がめちゃくちゃ上手(うめ)ぇ。さらさの普段の天真爛漫さと、一度見たシーンを完コピして再現するくだりの声色。この大きなギャップがさらさの特徴で、それを見事に演じ分けています。志田さんのウィキを見たら、ここ数年は仮面ライダーなどのドラマにも出演されたようですが、ゴリゴリの演劇畑出身ではなく、もとはグラビアモデルとの由。嘘でしょ???

一方、愛は無表情で感情の起伏が乏しいキャラとされていますが、物語の狂言回しであるためセリフが多く、表に出ないだけで実は喜怒哀楽が細かく描写されています。外面は変わらずとも、内面は絶えず揺れ動いているのです。さらに、原作でも衝撃的だった過去のトラウマシーン。あどけない少女が負の感情を爆発させ、燃え尽き、そして現在の奈良田愛へ変貌するあの過程。何人もの人格が入れ子になっているような、この複雑で矛盾した難しいキャラを、二瓶有加さんは演じ切りました。

二瓶さんもまた子役から叩き上げの俳優というわけではなく、歌やダンスが本業だったそうで。キャスティングはオファーなのかオーディションなのか分かりませんが、この2人を主役に抜擢したのは慧眼としか言いようがない。

3.山田彩子

15人いるメインキャストの中で唯一、アニメと同じ佐々木李子さんが演じています。つまり、アニメの中の人がそのまま出てきたわけ。もはや本物の(?)山田彩子と言っても過言ではない。

アニメで一度”オリジナル”を演じている以上、それをリアルでどう表現するのか。声だけだったものを、今度は身振り手振り、表情も含めて全部自前でやらなければならないわけです。そのあたりの苦労話はご本人にしか分かりません。

でも、一つだけはっきりしていることは、舞台上で歌った「My Sunset」が素晴らしかったことです。「俺、舞台で佐々木李子の生"My Sunset"を聴いたんだぜ☆」って一生自慢できます。

4.野島聖

腹黒ネキ。まずルックスが100点満点。聖そのものやんけ。見た目からして原作にすごく似ていると思っていました。舞台を見て、それは見た目だけではないことが分かりました。スポットライトを浴びながら、天使のような笑顔でセリフ*2を言い、舞台袖へ戻るため振り返る瞬間に、すうッと真顔になって闇へ消えていく。おそらくあれも演技として狙ってやっているんでしょうが、もはや再現度がどうこう言うレベルではなく、アニメを超越しています。

演じた青山なぎささんは声優で、舞台はこれが初挑戦だそう。演技だけでなくダンスも非常にお上手で、とても初めてとは思えませんでした*3

5.キモオタさん

ここまで何人も褒めちぎってきましたが、それらを全部持って行ったのがこの人。公式サイトのキャスト一覧にも、公演開始前に配信されたティザームービーにも出ていなかったため、驚いた人も多かったのでは。脇役ながら本編でかなり重要な立ち回りをするので、出てくるのも納得ですが、なんかもういろいろズルいよね(笑)。彼もまた、ある意味でオリジナルを超えています。その一挙手一投足で、会場の笑いをほしいままにしていました。

お名前の紹介が無かった*4ので調べたところ、演じたのは徳永翔太さんという方。クマのぬいぐるみの黒子と、穴井一尉の「動き」も彼でした。穴井一尉は声だけ本物の「アナゴボイス」で、それに合わせて徳永さんが芝居をする形でしたが、シンクロ具合が完璧。キモオタさんでのダンスもキレキレ。アフタートークショーを観覧した人によれば、各キャストのスケジュールが合わないときは徳永さんが代役で全員分の演技をこなしたらしく、脇役の枠に留まらない能力の高さに脱帽です。ちなみにキモオタさんの本名は、北大路幹也って言うんですって。カッコイイですよねぇ~。

 

他にも、杉本紗和(演:佐藤日向さん)。佐藤さん演じる紗和はなるほど、学級委員長にいそうな感じ。成績トップの優等生で、締めるところはキチンと締めるんだけど堅苦しすぎず、なんというか、情緒が豊かで人間味があるんですよね。それから小野寺先生(演:鷲尾昇さん)。傷心の彩子に対する真心の叫びは、屈指の感動回であるアニメ第5話を思い出して、胸がいっぱいになりました。

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演出や脚本の面で言うと、アンサンブルは最初は何じゃこりゃと思いましたが、あとから配信を見返してみるとこれはこれでアリでしょう。セリフなどはおおむね原作通りである一方、キャラの深掘りは奈良っちだけ。限られた時間と演者と舞台装置で表現するために、大幅にカットされた部分や改変された部分が随所に見られました。

まあ、原作マンガやアニメを履修せずにいきなり舞台を観に来る人は想定していないでしょうからね、むしろ差異を比べる楽しみがあって良かったです。

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また、芝居は中央のステージ上だけでは完結せず、客席の両脇にも小さなステージが設けられ、あまつさえ客席通路をその一部としてキャラが動き回るという驚くべき演出方法が採られており、会場全体がステージのよう。観客との一体化に一役買っていました。私は前方の通路側の席だったので、すぐ真横をキャストさんたちが演技しながら通るたびに、身を固くしていました(笑)。

初日はオープニングで音響トラブルがあったり、演者がセリフを噛みそうになったり、観ているこっちまでヒヤリとする場面もありましたが、必ずしも完璧でないところもまた生の演劇ならでは。臨場感の為せる技と言えましょう。

タレントにけばけばしいウィッグをかぶせただけの、陳腐なコスプレ劇なんかじゃない。歩んできたキャリアも年齢も役割も異なる大人たちが1つになって、全力で、全身で、『かげきしょうじょ!!』の世界を再現するんだという、関係者の皆さんの熱意と原作へのリスペクトが伝わる舞台でした。

観劇後には、自分もこの舞台に携わった人々のように、与えられた仕事や役割にベストを尽くしているだろうか? 喜びや楽しみを提供できているだろうか? と、そんなことまで考えさせられ、活力が湧いてきました。

2.5次元”という比喩の通り、マンガやアニメの世界(2次元)と、我々が生きる現実世界(3次元)がこの日を境に地続きになったような気がして、とても幸せです。

youtu.be

 

 

*1:私はS席11,000円

*2:主に嫌味

*3:あと、関係ないけど出身大学が同じだったので、勝手に親近感が湧いた

*4:公式パンフレットには記載があったらしい