鉄路は西から東から

鉄分多めの日常とお出かけの記録

「津軽海峡・冬景色」を見に行く旅R(5)完結

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rockmansion.hatenablog.jp

※記事の内容は旅行当時のものです。

2022年1月26日(水)

 旅行最終日。昼過ぎの飛行機で立たねばならぬので、それまでの間、函館市電に乗ってまた市内を見物してみようと思う。駅前ロータリーの外にある電停から、まずは湯の川行きに乗車。ちなみに函館市電に乗るのは今日が初めて。

 平日ではあるが、すでに通勤通学ラッシュは終わった時間帯だったので車内は空いている。路面電車は私から最も縁遠い乗り物の一つだから、ヨソからやって来てこの街の住人になったつもりで、あるいは路面電車のある街に生まれていたらどんな生活を送っていただろうか、と想像しながら乗ると楽しい。

 住宅街と温泉街が混然とした雰囲気の湯の川温泉を過ぎ、函館駅前から30分ほどで湯の川電停に到着。函館空港までは車で10分という距離だが、市電はここが終点となって折り返す。私も降りてみたところで用事はないし、めぼしい建物も見当たらなかったので、乗ってきた電車が「函館どつく前」行きになったのを確認して再び乗車した。

 来た道をトコトコ戻り、函館駅前を過ぎ、ベイエリアの最寄りである十字街で宝来・谷地頭線と分かれて、片道40分少々。もう一方の終点である函館どつく前に到着した。

 函館どつく。文字にするとなんとなく物騒な響きであるけれど、これは船の "dock" すなわち造船所のことで、古い表記をそのまま使用しているためこのような名前になっているようだ。

 さて、ここまで来たからにはもう1つ乗っておかねばならない。さっき十字街で分かれた宝来・谷地頭線である。函館どつく前からの直通列車はないので、いったん十字街へ戻り、函館駅前方面から来た谷地頭行きの列車に乗り換える。

 住宅街をゴトゴト走り、映画やドラマの撮影にも使われるという坂をソロソロと降りたら、終点の谷地頭電停である。谷地頭温泉という日帰り温泉や、函館八幡宮が周辺にある。

 電車を降りて見ると、今しがた下ってきた勾配がよく分かる。まるで海外のトラムといった風情であり、海に近く、港町・函館という意識もあるからますます絵になる。ロケ地に使われるのもうなずける。

 しかしあとで調べると、ここは実に58.3‰*1という急勾配だった。一般的な鉄道は25‰を限度とするのが原則だから、その倍以上の急坂を上り下りしていることになる。

 厳寒の北海道、潮風が吹きすさび、通常の倍以上の急勾配……。すごいなぁ、絵になるなぁで終わればいいものを、私のような人間になると嫌な連想をしてしまう。これもあとで分かったことだが、実際に1999年1月2日、この坂を下っている途中でスリップしてブレーキの利かなくなった列車が車止めに激突、それでも止まり切れずに待合室へ突っ込み、中で列車を待っていた5人が負傷する事故が起きている。

 おそらく、積雪期や波風の強い日は相当に神経を使うに違いない。運転士の気苦労に思いを馳せつつ、次は雪のない季節に来て、周囲を散策してみたいと思った。

 旅行の締めくくりとして、また十字街電停へ戻って来た。日本最古*2にして現役だというコンクリート電柱をしかと眺めてから、商業施設の立ち並ぶエリアへ向かう。

 この地域のランドマークは、明治期に建てられた赤レンガ倉庫をリノベーションしたショッピングモール。ここを中心に、おしゃれなカフェやらホテルやらが立ち並び、函館の一大観光地と化している。一見、どこにでもありそうなコメダ珈琲も、よく見ると看板の紳士が水兵の格好をしていておもしろい。

 おもしろいが、私も齢傾きて、こういうところを独りぼっちで歩くのは気が進まないようになってきたのは否めない。そういえば、平日だというのにアベックや家族連れも少なくないようだ。朝から寒い中を歩き回っているせいもあって、だんだんとむなしくなってきた。昼めしを食おうと思う。

 やってきたのは再びラッキーピエロ……ではなく、左横の「ハセガワストア」。函館市とその近郊に展開するご当地コンビニで、名物の「やきとり弁当」を販売している。注文票に個数を記入して待つこと数分、出来立ての弁当を店内でいただく。

 これが「やきとり弁当」。ご飯の上に海苔が敷かれ、タレをたっぷりまとったネギマが3本載っていて大変うまい。ただし、「焼き鳥」ではない。道南地方で「やきとり」と言うと、豚肉を串に刺して焼いたものを指す場合が多い。つまり「やきとん弁当」なのである。本物の(?)鶏肉のやきとりや、塩味のものなどもある。

 その後は路面電車函館駅前へ。駅の中でお土産などを購入し、函館空港行きのリムジンバスを待つ。今回は空路で帰るわけだが、羽田からは結局東京駅へ出て新幹線に乗らねばならぬし、実は新幹線を乗り継いで延々と陸路で帰っても、所要時間はそれほど変わらない。値段で言っても、飛行機の割引が渋ければ新幹線のほうが安い場合もある。「飛行機のほうが早いのに」「東京から北海道まで誰が新幹線なんかに乗るのか」と嘲笑う人は、きっと羽田空港から徒歩圏内に住んでいるのだろう。知らんけど。

 と、改札口近くに、私が昨日使った「いさりび1日カンパス」に関する掲示が出ているのを発見。

 ゆうべ、私を函館山から遠ざけた「まん延防止」のため、明日(27日)から割引乗車券類が発売停止となる旨の掲示であった。あと数日ずれていたら、夜の函館山どころか道南いさりび鉄道などに乗る計画もどうなっていたか分からない。危ないところだった……。

 今までは通過するばかりで、ちゃんと観光したことのなかった函館。前述の函館山のほか、五稜郭公園やミスタードーナツ*3にも行ってみたかったし、あるいは新幹線延伸で一部が廃止となる函館本線にも近いうちに乗らねばならない。摩周丸を見学したり、湯の川温泉に入ってみるのもいいだろう。ラッキーピエロハセガワストアの別メニューも食べてみたい。

 私を乗せた日航機はぐんぐん高度を上げ、今回の旅行で親しんだ街がミニチュアのように小さくなっていく。やがて白い雲に包まれて見えなくなってもなお、私は函館のことを考え続けていた。

 

おわり

 

*1:パーミル。1000m走って1mの勾配が1パーミル

*2:1923年建立

*3:函館地域のミスドは激安で知られる