鉄路は西から東から

鉄分多めの日常とお出かけの記録

「津軽海峡・冬景色」を見に行く旅R(3)

前回はコチラ↓

rockmansion.hatenablog.jp

 

※記事の内容は旅行当時のものです。

2022年1月25日(火) 午前

 オタクの朝はそれなりに早い。ホテルが用意してくれる無料朝食の提供が始まるよりも早く、私はチェックアウトを済ませ、青森駅前にある複合施設「アウガ」の地下へ向かった。ここには生鮮品を扱う市場があり、一般人も買い物や食事ができる。また、市場という性質上、早朝から営業している店もある。私が朝食にカレーライスを食べたのも、そんな市場で働く人向けの食堂だ。

 カレーライスを食べ終わり、青森駅前へ戻る。しかし乗車するのは列車ではなく市バス。寒風に吹かれながら、フェリーターミナルの最寄りへ向かう始発のバスを待つ。大学時代から何度となく往来してきた青森~函館間だが、今回は初めてフェリーを利用してみようと思う。

 かつて国鉄の「青函連絡船」が運航していたころは、青森駅のホーム端から桟橋へ徒歩で移動できたらしいが、現在は民間の船舶会社2社が運航し、どちらも青森駅から徒歩約45分の位置にあるフェリーターミナルから発着している。45分ってオイ。

 当然ながら青森の雪道を45分も歩いたのではたまらないから、必然的にバスかタクシーとなる。一人旅ならたいていバスを選ぶだろう。

 定刻6時45分にバスは発車した。朝の通勤通学で混雑し始めた街なかを走り、7時すぎに「新田」というバス停で下車。ここから10分あまり、ネットで下調べした道をフェリーターミナルへと歩く。ところどころ、歩道の除雪が行き届いていないところがあり、シャーベット状の汚れた雪を踏みながら車の行き交う車道を歩く羽目になった。雪国の人間である私には馴れっこだが、そうでない人は冬場に「徒歩10分」でたどり着くのは難しいかもしれない。

 7時15分ごろに津軽海峡フェリーターミナルへ到着。乗船受付の締切時間は7時20分だった*1から、なんとか間に合ったな……とホッとしたのも束の間、向こうから係員が走って来て、バスに乗れと催促する。船にはボーディングブリッジではなく、送迎バスで向かうらしい。他のお客さんをお待たせしたなら申し訳ないな……と思って私も小走りでバスに乗り込んだが、車内には運転手のほか誰もいなかった。

 路線車タイプのバス、丸々1台に私だけを乗せてわずか1~2分、乗船する「ブルードルフィン」の乗船口に到着。後部ハッチの上を歩いて船内へ乗り込む。もう他のお客は全員乗り込んだ後かしら……と思いきや、船内にも姿はない。あとで分かったことだが、なんと私が乗った便は徒歩乗船客は私一人きり、それからトラックの運転手らしきおっちゃんが数人だけなのであった。

 7時40分、「ブルードルフィン」は青森港を出航した。函館までは約3時間40分の船旅である。港には僚船の「ブルールミナス」、その手前にはライバル会社の青函フェリーの「あさかぜ5号」が停泊しているのが見える。こうして見ると「あさかぜ5号」はいかにも船体が小さく、なんとなくみすぼらしい。ただ、向こうのほうが「連絡船っぽさ」があるように思う。「あさかぜ5号」という名前も列車名のようで好もしい*2

 実は、最初は料金の安い青函フェリーに乗るつもりだったのだが、あろうことか私の希望する便は満員で予約ができず、こちらの津軽海峡フェリーにした経緯がある。その津軽海峡フェリーは一般客は私一人だったわけだから、なんという格差であろうか。

 まあ、すいているに越したことはない。誰もいないのをいいことに私は甲板でスマホを取り出し、音楽を聴き始めた。そう、石川さゆり『津軽海峡・冬景色』である。津軽海峡の冬景色を見ながら、『津軽海峡・冬景色』を聴く。これが今回の旅の最大の目的だった。

ごらん あれが竜飛岬 北のはずれと

見知らぬ人が 指をさす

息でくもる 窓のガラス ふいてみたけど

はるかに かすみ 見えるだけ

 

――石川さゆり津軽海峡・冬景色

 ……寒いので中に戻ったが、出航から1時間半ほどで、その竜飛岬が左側に見えてくる。しかし他にお客がいないため、あれが竜飛岬だと教えてくれそうな人は当然いない。息でくもる窓のガラス……もテーブルがあってそこまで顔を近づけられないから、特に曇ったりはしない。

 空はどんよりしているが、雪も降っていないし風もないし、海は至って穏やかで、冬の荒々しい海という感じはない。想像していたものと違ってなんとなく拍子抜けであるけれど、かつて真冬の日本海爆弾低気圧が直撃してえらい目に遭ったので、荒波を乗り越えて行くよりもこのほうがよい。揺れの少ない快適な船旅である。

 しばらく景色を堪能したのち、乗船の記念になるものを買おうと船内の売店へ行くと、なんたることか、「本航海の営業は終了しました」という無慈悲な札が掛かっていた。ついでに隣の案内所も閉まっている。おいマジか。乗ったときは開いていたじゃないか。本航海って、まだ半分も来ていないぜ。

 乗組員はいろいろな業務を掛け持ちしていて忙しいのだろうし、乗客は(ほぼ)私一人しかいない以上、来るかどうかも分からない風来坊のためだけに、約3時間半の間ずっと律儀に開けておく義理はないのも充分わかる。わかるけどさぁ……。

 開いていないものは仕方がないので、船内を少し散策。フリースペースには飲料(アルコールもあり)の自販機のほか、船旅にはお馴染みのカップ麺や冷凍食品の自販機もある。特に冷凍食品のほうは、長万部駅の名物駅弁「かにめし」を冷凍にしたものが売られていた。冷凍の「かにめし」なんてあるんだ……。朝食を食べていなかったら、1つ買ってみてもよかったかもしれない。

 やることもなくなったので、船内に置いてあったパンフレットを読んだり、桟敷席でカバンを枕代わりにしてウトウトしながら過ごし、3時間40分の航路つつがなく「ブルードルフィン」は函館港に着岸した。ここからはバスで函館市街へ向かう。

 その前に、これから使用する「いさりび1日カンパス」なるフリーきっぷを購入する。道南いさりび鉄道全線と、函館バスの指定区域内が1日乗り放題となるきっぷである。通常は大人1,800円のところ、北海道の「公共交通利用促進キャンペーン」とかで半額の900円で購入できた。ちなみに、これから乗車する路線もフリーエリアに含まれている。

 やってきたバスに乗車。函館バスに乗るのは初めてである。これはラッピングされているので例外だが、函館バスはかつて東急グループ傘下であったため、バスのデザインが東急のそれと酷似している。同じような経緯をたどったバス会社は全国各地にあり、私の郷里を走る越後交通もその1つだ。だから函館バス越後交通にソックリとも言え、初めてなのになんだか親近感が湧く。

 そのままバスに揺られていれば、次の目的地である函館駅へ向かえるのだが、フリーきっぷの強みを生かして途中下車。函館のご当地ファストフード店ラッキーピエロ」で昼食とする。

 名物の「チャイニーズチキンバーガー」と「ラキポテ*3」のセットを食べる。大変うまい。こういう名物があることは知ってはいたが、何度も来ているくせに函館は「通過」するばかりでろくに観光したことがなかったので、初めて食べた。今回はこうしたご当地グルメもいろいろ食べてみようと思う。

 腹ごしらえが済んだら再びバスに乗り、今度こそ函館駅へ。道南いさりび鉄道、通称いさ鉄に乗車する。

 

つづく

 

 

*1:ネット予約していた場合

*2:列車の「あさかぜ」は下関に行く寝台特急(2005年廃止)だけどね

*3:ラッキーポテト。ホワイトソースとミートソースがかかっている